103万円の壁は123万円に後退したが・・
2025/01/06 13:43:04 経済一般
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年末に令和7年度税制改正大綱が閣議決定され、103万円の壁は崩壊しました。具体的には基礎控除が48万円→58万円(ただし住民税の基礎控除は43万円のまま)に、給与所得控除が55万円→65万円に改正され、給与所得のみの場合は年間123万円までの収入につき所得税が本人非課税、かつ配偶者・扶養者の税金上の扶養に入ることができるようになりました。
この改正は令和7年から適用されます(源泉徴収税額の変更はなぜか令和8年から)ので、今年から早速働き方が変わることになるはずですし、日本経済としても「年間給与20万円×パート・アルバイト労働者数」分の労働力が創出されるわけで、労働力不足の解消にも繋がるはずなのですが・・。
だがしかし!今までも配偶者の年間給与収入が150万円以下(令和7年以降は改正により160万円以下)の場合、配偶者特別控除が配偶者控除と同額で適用を受けれるため、すでに実質的にパートの方の103万円の壁は崩壊していたはずでした。でも実際には大きな労働力の創出はされませんでした。なぜでしょうか?
それは106万円の壁、130万円の壁が103万円の壁とはレベチで存在しているからです。年収が106万円を超えると従業員51名以上の会社で社会保険の扶養が外れ(=自身で社会保険等に加入)、年収130万円を超えると全ての会社で社会保険の扶養が外れます。
税金上の扶養が外れるタイミングでは配偶者の所得控除がなだらかに減っていくので、壁を超えた瞬間夫婦合計の手取り額が大きく減ることはないのですが、社会保険の扶養は外れた瞬間、社会保険料の負担が生じて手取り額が大きく減ります。ちなみに130万円を超えて減った手取り額を取り戻すには、151万円位まで働かないと同じ手取り額になりません。感覚的には21万円はただ働きだと感じるかもしれません。
106万円の壁が存在する方にとっては103万円の壁が崩壊しても3万円後ろにメインの壁が存在するため、103万円の壁崩壊に大した意味はありません。130万円の壁が存在する方も、103万円の壁突破時点では手取り額が減るわけではないので既に130万円をギリギリ超えない程度の労働時間で調整をしている方も多いです。その方にとっては103万円の壁が123万円に後退しても、すでにそこは無視しているため影響がありません。
結論を言いますと、103万円の壁を123万円に後退させたことは、働き方という視点からはほとんど意味はないです。ただ近い将来130万円の壁がなくなり106万円の壁に一体化される可能性が高いので、「もう社会保険はあきらめて払って、しっかり働きなさい」というのが国からのメッセージでしょう。
働き方という視点からは意味はないのですが、税金計算上では基礎控除が10万円、給与所得控除が10万円増加したことにより、減税効果はあります。税制改正大綱によると、この改正により6~7千億円程度の減税を見込んでいるようです。一方、防衛特別法人税(仮称)を創設することにより5~8千億円の増税を見込んでいます。令和8年4月1日以後開始事業年度より年間500万円を超える部分の法人利益に対して4%の法人税が課されます。
銀行融資を受けやすい決算書とは?
2024/12/02 13:55:12 決算書
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金融機関に事業資金の融資を申し込んだ場合、金融機関は決算書、試算表、事業計画書や代表者への聞き取りなどをもとに融資実行の可否を判断しますが、一般的に融資判断の7割程度は決算書で決まると言われております。では、金融機関は決算書のどこを見ているのでしょうか。
まず金融機関からの借入残高がどの位あるかを確認します。業種にもよりますが、年商(=1年間の売上高)の2分の1未満なら青信号、年商額未満なら黄信号、年商額以上なら赤信号、というイメージです。
次に利益状況です。黒字であればもちろん有利です。ただ法人が役員報酬を取りすぎて赤字になっている場合は、今後役員報酬を下げれば黒字転換できるし、役員報酬の一部は個人で貯金しているだろうから個人の返済余力が増加しているため問題なし、と判断されるケースもあります。代表者+配偶者で年間800万円程度以上の役員報酬を取っていて赤字の場合は、そのように判断されることが多いと言われています。
また法人の場合は減価償却をするかどうかは任意ですから、減価償却をしないことで黒字にするケースもありますが、金融機関は利益だけでなく法人の返済余力(ざっくり税引後利益+減価償却費)も見ます。減価償却してもしなくてもこの返済余力は同額になりますので、金融機関によっては「減価償却を限度額まで行っていたら赤字だった場合の黒字決算は、実質赤字」と判断する場合もあります。
直近の決算が赤字だから融資が受けられない、ということは必ずしもありませんが、その場合は①2期連続赤字でないか、②債務超過でないか、③税や社会保険料の未納がないか、等が判断材料になります。特に③に該当すると融資を受けるのはほぼムリですので、融資を多めに受けてでも、③にならないように普段から手持ち資金を潤沢にしておく必要があります。
それ以外の注意点として、法人なら「役員貸付金」がないか、は重要なポイントです。役員貸付金があると、金融機関は「法人に貸し付けた資金を個人に流用された」と見ますので、今後融資を受ける上で非常に不利になります。すぐに全額解消は難しくても、計画的な返済計画を提示して実際に毎期ごとに貸付金残高を減らして行かないと、金融機関の信頼を失います。
最後に、複数の金融機関とお付き合いすることをお勧めします。どうしても金融機関ごとに「積極的に融資する業種」と「融資に消極的な業種」の考え方(好み?)の違いがあるからです。また融資を受ける際に複数の金融機関からの条件提示を受けて、より有利な金融機関から借入をする、ということができる場合もあります。無借金経営を続けられる場合は必要ありませんが、どうしても多額な設備資金が継続的に必要な事業の場合、金融機関との上手な付き合いは避けて通れません。
「現預金の生前贈与による相続税対策」のまとめ
2024/11/01 15:03:20 相続対策
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相続税対策は、大きく「生前贈与」「不動産の活用」「生命保険の活用その他」の3つに分けることができます。そのうち現預金を生前贈与する方法を簡潔にまとめました。有効な現預金の生前贈与方法は、以下の5つです。
(1)年間110万円の贈与税非課税枠の範囲内で贈与する
(2)贈与税率<相続税率となる金額の範囲内で贈与する
(3)相続人でない孫などに贈与する
(4)そもそも贈与税の対象にならない資金として贈与する
(5)相続時精算課税の基礎控除範囲内で贈与する
それぞれの細かい注意点は実行前に各担当者にご確認いただければと思いますが、まず(1)(2)は伝統的な節税方法です。しかし令和6年以降に相続人に行った贈与は、相続発生時に過去7年間さかのぼって相続財産に加算されてしまいます(一部例外あり)。より早い段階から計画的に行わないと、節税効果が薄れることになります。
(3)はたとえ相続開始1日前にされた贈与であってもさかのぼられることがないので非常に有効な節税対策になります。ただし①孫が(遺言書等で)遺贈により財産を取得した場合、②孫が生命保険の受取人に指定されている場合、③被相続人の子が死亡しているため孫が代襲相続人になっている場合、は(1)(2)と同様に7年間さかのぼられますので注意してください。
(4)ですが、被扶養者が生活費として(常識の範囲内の金額で)金銭を渡す場合、大学の授業料等を払う場合は、そもそも扶養義務を実行しただけなので贈与には該当しません。この被扶養者とは両親だけでなく、祖父母も該当します。ただし授業料等は被扶養者が直接大学等に支払わないと一般の贈与とみなされてしまいますので、注意してください。なお(5)については令和6年8月1日投稿のブログで詳しく解説しておりますので、そちらをご覧いただければと思います。
AIで税理士がオワコンになるか、考えてみた
2024/10/01 16:19:06 経済一般
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AIによって税理士の仕事がなくなる、とよく言われます。確かに近年、銀行取引を連携処理して会計ソフトに自動取込したり、スキャンした領収書をAIが勘定科目予測した上で会計仕訳に変換できるようになってきました。一見してみると、「そこまで会計ソフトでできるなら、税理士いらねーかな」と感じますね。ただ以前も弥生会計などの安価な市販会計ソフトが出てきた時に税理士の仕事は減ると言われましたが、実際はそうはなりませんでした。
理由としては、会計ソフトで自分で入力するにせよ、データを自動取込するにせよ、入力や設定の作業が必要ですし、自動取込してもさすがにチェックと修正が全く不要なわけではありません。なので、「会計事務がめんどくさい、わからない、時間がない」方にとってはあくまで会計事務はアウトソーシングしたいのだと思います。社長自身で会計事務が必要な事業者なら、なおさらですよね。
もちろん会計事務所も変わっていかないといけません。多様なAI処理に対応できるだけの設備投資が必要になりますし、スキルも学んでいかないといけません。AIへの設備投資は年々増えていき、だんだんと会計事務所はIT産業化していくかな、と思っています。また意識改革も必要で、私のような40代以上の人間にとっては「便利な部分だけ手作業からITに差し替えていけばいい」という感覚ですが、生まれたときからスマホやSNSが存在するZ世代の人にとってはそもそも手作業するという概念がなく、「自動化するのが当たり前」ですので、両方の感覚に対応できるようなハイブリッド感が必要になると考えています。
また税務というのは一見「税法」でカチカチに内容が決まっていると思われるかもしれませんが、実際は税法の内容だけで世の中の全ての商取引をカバーするにはほど遠く、国税庁が税法の具体的な取り扱いを指針する「通達」、実際の税務訴訟の「判決」も確認する必要があります。それでもグレーなゾーンは広いので、それらに加えて実際に税務調査を受けての「肌加減」や、顧問先様ごとの「実情」を加味した判断なども必要で、このあたりはさすがにAIが取って変わるのは難しいだろうと思っています。「税理士はオワコン」と言われないように、日々精進して行きたいと思います!
8月5日の株価暴落について
2024/09/02 13:19:10 株式投資
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8月5日に日経平均株価が暴落し、前日比△4,451円安の31,458円で取引を終え、ブラックマンデー超えの過去最大下げ幅になりました。日経平均はこの前から8月1日に△975円安、8月2日に△2,217円安と大幅下落が続いており(8月3・4日は土日で市場は休み)、8月2日時点でかなりヤバい雰囲気にはなっていました。
8月5日は私が持っていた三井住友銀行株もストップ安で張り付くなど、大型株も含めてありえないほどの下げに見舞われ、こんなことはトヨタ自動車が朝からストップ安に張り付いたリーマンショックの時以来の衝撃でした。しかし8月6日は大幅に上昇に転じて3,217円高の34,675円で終了、その後も上昇を続けて8月16日には終値が38,062円と、ほぼ7月末時点の暴落前の価格まで戻りました。
今回の下げは7月31日に日銀が突如利上げを発表したこと(事前予測では7月は利上げは見送られると見られていた)、それによる急激な円高の進行、そして円高に誘発されて日経平均が暴落しました。さらにアメリカ景気の先行き不安を示す指標が発表されたことが重なり、アメリカ投資家が円キャリートレード(金利の安い円で借金して、その円でドルを買って投資すること)を急激に巻き戻してアメリカの株価も暴落、アルゴリズムによる自動売買プログラムもその動きに拍車をかけ、全世界の市場が完全にパニック、最後は止まらない暴落の恐怖から投げ売りが連鎖してこんなひどいことになりました。
しかし、これは私の完全な後出しジャンケンですが、今回の暴落はすぐ終わるだろうと思っていました(←苦情は受け付けません笑)。理由は「暴落が長引くようなイベントは何も起こっていなかったから」です。端を発した日銀の利上げですが、政策金利を0.1%から0.25%に、たった0.15%上げただけです。しかも「今後市場が混乱するような利上げはしない」と後で火消しにまで走っています。実際のところアメリカとの金利差はまだまだ大きく、冷静になればある程度株価が下がれば織り込む程度のイベントでした。またアメリカで発表された指標も、アメリカ経済がハードランディングするほどの内容ではありませんでした。
最近は自動売買プログラムの影響で急激に株価が一方向に動きやすいのですが、「リーマン・ブラザーズの破綻が実体経済にどのくらいの規模・期間の悪影響を与えるかわからない」という実態を伴うダメージが起こったリーマンショックとは根底が異なるものでした。実際に今回ブラックマンデー超えの暴落でありながら、「○○ショック」のような名前がつくこともありませんでした。ただしこの暴落が、次の何らかの理由ある暴落の火種になる可能性はあります。注意しながら資産運用をして行きましょう。