相互関税 その後・・
2025/06/02 17:53:57 経済一般
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相変わらず世界中を振り回しているトランプ大統領ですが、日経平均株価は3月下旬の38,000円から31,000円まで暴落後、1ヶ月くらいかけて元の38,000円まで回復しました。とりあえず相互関税が90日間停止されているのと、その間に各国との取引がまとまっておそらく世界経済はそうひどいことにはならないだろう、という雰囲気が流れています。リーマンショック級の経済崩壊はひとまず回避されました。
中国とも、当初はアメリカが145%、中国が125%の関税をお互いに課すというバチバチのやり合いでしたが、その後アメリカが30%、中国が10%に引き下げることで合意されました。結局脅しだけだったのか、という声も上がり始め、SNS上では「TACO」と揶揄され始めました。これはTrump Always Chikens Outの略で、「トランプはいつも直前になって怖くなって取りやめる」の意味になります。アメリカでは「チキン」は臆病者のことを指します。
さらにこの関税措置に関して、5月28日にアメリカ国際貿易裁判所は「大統領に与えられた権限を超えている」として一部差し止めを命じました。トランプ大統領は即日控訴、今度は翌日5月29日にアメリカ連邦巡回区控訴裁判所がこの差し止めを一時停止する判断を下すなど、アメリカドラマさながらのハチャメチャな動きとなっております。
トランプ大統領の、そしてアメリカの狙いは結局のところ何なんだろう、という感じですが、やはり脅威となってきた中国を潰すことがその目的の一つであることは間違いなさそうです。私が色々読んでいて、「これだな」と思った説は以下のようなものです。
日本は1980年代~1990年あたり、つまりバブル真っ盛りの時、まさに無敵状態でした。日本企業は半導体市場で世界シェアの50%以上を握っていたのを始め、先端エレクトロニクスなどの製造業ではアメリカや近隣諸国をはるかに凌駕していました。アメリカは「この状態は許せない」ということになり、日米貿易摩擦に発展していきました。アメリカによる露骨な日本叩きで、日本のビジネスの土台がどんどん崩されていきました。しかしアメリカは当時も賃金が高く、製造業を大きく発展させる土壌もすでに無かったので、日本が得意としていた分野を中国、韓国、台湾などにシフトさせていったわけです。結果、日本はバブル崩壊から失われた30年に突入し、一方で中国は急激な経済発展、韓国や台湾でも最先端の半導体産業が発展していきました。
そして今まさにアメリカはこの30年前の動きを逆回転させようとしています。経済的、軍事的に脅威となった中国に対し高い関税をかけて世界のサプライチェーンから中国を分断する。中国が得意としている分野をアメリカ国内に戻したいが、やはり製造業に関しては発展させる土壌はすでに無い。ではどこにシフトさせるか。未だ世界有数の技術を有し、戦争もなく政治も安定しており、GDP世界4位の経済規模でありながら30年間も賃金が上がらず製造コストも比較的安上がりな国。そう、30年前に自らの手でぶっ壊した日本に再び製造業のサプライチェーンを構築するのです。
本当にこのシナリオ通りに今からの世界情勢が動くのであれば、日本経済の未来はかなり明るいですし、またこのチャンスを掴まないといけないと思います。日本政府もさすがにこの辺りはよく理解しているようで、実は私は結構期待しています。
リーマンショック級? トランプ大統領の相互関税
2025/05/01 15:07:29 経済一般
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4月2日、世界中に激震が走りました。トランプ大統領が全ての国や地域に一律10%、日本に24%、中国には34%(その後145%にまで引き上げ!)等の関税を課すと発表しました。想定外に高い関税率の発表に、世界中がパニック。そして株価も急落しました。
「相互」関税ということですが、そもそも日本はアメリカに同程度の関税を課しているのかと言うと、決してそんなことはありません。アメリカは貿易赤字が大きいので、それを減らしたという目的があるようです。ただアメリカは金融やITなど関税の関係ない分野で稼いだお金でいろいろなものを輸入しているのですから、貿易赤字になるのは当たり前です。それを「お前らのせいだから今から関税かけるね」は無理筋もいいところなのです。
しかし、この相互関税はアメリカにとって本当にプラスになるのでしょうか?関税はアメリカの輸入業者が納めます(この関税率だと関税総額は2年で100兆円になるとか!この資金を原資に所得減税を実施するのが目的という説もアリ)が、輸入業者はその納税分を商品価格に上乗せします。するとアメリカではインフレがさらに加速します。そして価格が高くなりすぎてモノが売れなくなると経済は冷え込みます。インフレになりながら景気が後退する「スタグフレーション」は、経済状況としては最悪です。また日本企業もアメリカに輸出するモノが売れなくなるので、日本経済も悪化します。世界経済はアメリカを中心に回っていますので、世界中がリーマンショック級の不況になる恐れすらあります。
また「関税が嫌ならアメリカ国内で工場を作って生産しなさい」とトランプ大統領は言いますが、もちろんそんなすぐに工場を作ったり移せるものではありません。例えばアップルはアメリカで使われるiPhoneの約80%を中国の工場で作っています。人的資源を含む複雑なサプライチェーンをすでに中国国内に構築しているのですから、これを全てアメリカ国内に移すなど、やはり無理筋(4月25日に「生産をインドに移す」との発表あり)です。トランプ大統領の真の目的が不明瞭すぎます。目指すゴールを明確にしない指導者というのは、経営方針のない経営者と同じで、ついて来ている者を路頭に迷わせてしまうのではないでしょうか?
なお、トランプ大統領は4月9日にこの相互関税を90日間の停止すると発表しました(中国を除く)。トランプ大統領は今年借換の生じる9.2兆ドルもの米国債の利率を下げたいので、相互関税発表による株式暴落→米国債上昇→米国債金利低下、という流れを狙ったという説があります。経済の教科書的には株価が売られると相対的に国債が買われ、人気化した国債の金利は低下する、ということになります。
ところが、実際には株価の暴落と並行して米国債価格も急落してしまいました。すると意に反して米国債の金利は急激に上昇しました。この米国債価格急落の原因は、日本に次ぐ米国債保有額第2位の中国が、報復として叩き売ったから、という説があります。何にせよ、この米国債金利の急上昇に耐えられなくなったトランプ大統領は、やむをえず90日間の相互関税停止を発表した、というわけです。
90日経過後の世界経済はどうなっているでしょうか。リーマンショック級の経済崩壊を引き起こした大統領、という汚名を着ることをトランプ大統領は望んでいないでしょうから、アメリカにとって有利な何らかのディールが成立すれば、相互関税は引くのかもしれません。
生前贈与、不動産活用以外の相続税対策
2025/04/01 16:28:06 相続対策
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相続税対策といえば、まず生前贈与や不動産活用が最初に挙がってきます。これは以前の事務所通信やブログでも取り上げておりますが、それ以外にも相続税対策となるものはあります。
一番使い勝手が良いのは生命保険でしょう。被相続人が保険料を支払っていた生命保険契約の死亡保険金は相続税の対象となりますが、相続人が死亡保険金を受け取った場合は500万円×法定相続人の金額が非課税になります。例えば法定相続人が2人の場合、1,000万円の一時払の生命保険に加入します(ご高齢の方でも一時払の生命保険であれば無告知で加入できるものがあります)。そうすることで、預貯金のままだと相続税評価額も1,000万円になる預貯金が全額非課税になります(一時払の場合、おおむね支払保険料≒死亡保険金)。
また生命保険は受取人を指定しておくことができます。受取人の指定には実質的に遺言書での指定と同様の効果があり、また解約時に遺言書が必要がないので相続人は預貯金の解約よりも早くお金を受け取れるという効果もあります。生命保険金の非課税枠が空いている場合は、積極的に活用していきたい相続税対策のひとつです。
注意したいのは、相続人以外が受け取った死亡保険金には非課税枠が無いという点です。例えば相続人でない孫が死亡保険金を受け取った場合は孫に相続税がかかるうえ、もし預貯金を生前贈与していた場合は本来かからないはずの生前贈与加算(原則7年前までさかのぼって)までされてしまいます。
それ以外には、養子縁組をするという相続税対策もあります。相続税の非課税枠は3,000万円+600万円×法定相続人ですので、養子縁組することで法定相続人が増える=相続税の非課税枠も増える、ということになります。ただし税務上の法定相続人と認められる養子は1名まで(実子がいない場合は2名まで)です。
しかし養子縁組さえすれば無条件に節税できると言うわけでもありません。節税目的をメインとした養子縁組について争われた税務相談では、高裁は「節税目的の養子縁組=当事者間での縁組の意思がない」として無効の判決を出しました。最高裁では節税目的でもお互いの縁組の意思があれば無効にはならないとして判決を覆しましたが、このように「理由なき縁組」は節税としてはリスクが高いので注意してください。
3月26日ころのニュースで、自民党がNISAの拡充案として「高齢者が日本株を長期保有した場合に相続税を一部免除する」案を検討している、というのが流れていました。今まで株式投資と相続税対策との間には基本的に接点はなかったのですが、もしこれが実現すれば相続税対策に「株式投資」という新しい大枠がひとつ誕生することになり、なかなかに画期的だと思います。また「日本株」と限定しているのもミソで、NISAは外国株式等への投資も対象になっていますが、この案は明らかに「眠っている預貯金で日本株を下支えする」という意図が見えます。政府が保有株の売却をぶつけたいだけかもしれませんが・・。
セブンイレブンのMBO頓挫に思うことあれこれ
2025/03/03 17:23:01 経済一般
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セブンイレブンの経営が大きく揺れているのはご存知でしょうか?カナダのコンビニ大手シュタール社が昨秋、セブンイレブン親会社のセブン&アイ・ホールディングス(以下「セブン」という)に対して7兆円という超大型買収の提案を行いました。
2/末時点でのセブンの時価総額は5.5兆円位ですので、この買収が成立すると株主にとっては差し引き1.5兆円の価値が向上するわけですから、「早く買収案に乗ってくれ」と思っている株主は少なくないはずです。業界1位のセブンは最近業績が低調で、2位のファミリーマートや3位のローソンとの差が縮まっているのではと言われる状況なのでなおさらです。
ところが、自力での経営を続けたいセブン側は「創業家が9兆円でMBOを計画」と発表しました。MBOとは経営陣が株式を買い取り経営権を取得することで、成功すれば創業家は国外企業からの買収を阻止できるということになります。
結果的にこのMBOは頓挫しました。当初から創業家が準備できる金額は5,000億円程度しかないと言われており、残りは銀行融資や他社からの出資でまかなう、という計画のようで、専門家からは当初からこのMBOは難しいだろうと言われておりました。
最終的には、ファミリーマートを運営する伊藤忠商事が1兆円の出資を見送ったことにより、資金の目処がたたなくなり頓挫に至ったという流れです。
9兆円でのMBOという大風呂敷を敷いておいて頓挫したのですから、経営陣はただではすまないよなと思っていたら、3月に入り社長交代というニュースが入ってきました。セブンは採算の合わないイトーヨーカドーを大量閉店するなど事業の立て直しを図っていますが、7兆円の買収に応じないのなら、具体的な事業立て直しの施策や増配、自社株買いなどを発表して今の時価総額を7兆円程度まで持っていかないと株主代表訴訟を起こされる可能性があります。そのような施策が出ることを期待してセブンの株式を買っておく、というのもアリかもしれませんね。
ところで、このような外国企業による大型買収提案というのは今後もっと増える可能性があります。ただでさえ円安により日本企業が買いやすくなっている上、日本企業の株式は基本的に割安のまま放置されています。実際のところ日本企業は最近では失われた30年を経てようやく高収益企業に変わりつつありますし、特にニッチ分野では世界一の技術をもつ企業なども多いです。その上最近では株価を意識して増配や自社株買いを積極的に行っている企業もかなり増えています。外国の投資家にとって日本はまだ「30年も経済成長せず、今後急激に人口が減っていく明るい見通しのない国」というイメージが多いですが、実態は変わり始めています。日経平均が4万円を超えてきた要因は、外国投資家が日本株を買い始めたのもありますが、内部留保が豊富な日本企業が積極的な自社株買い(2024年で14兆円以上!)を続けていることも大きく、日本企業自体が自社の株価を「割安で今が買い時」と思っているからこそ、積極的に自社株を買っているのです。
不動産を活用した相続税対策
2025/02/03 15:19:49 相続対策
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不動産を活用することで相続税対策になるケースは多々あります。例えば「相続した実家の土地に賃貸アパートを建築する」などです。では、なぜ賃貸アパートを建築すると相続税が下がるのでしょうか?
土地の上に空き家となっている実家の建物がある場合、この土地評価は更地と同じ評価になり、路線価をもとに計算した評価額から基本的には減額要素がありません。しかしこの実家を取り壊して賃貸アパートを建築した場合、土地の評価額は一般的に15%程度減額されます。
アパートを建築した土地は更地ではなく「貸家建付地(かしやたてつけち)」の評価となり、更地評価から「更地評価×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」の額を減額することができます。これはアパートの敷地となっている土地は、(部屋を借りている人の住む権利などがあるため)更地に比べて売却などの処分がしにくいので、その分評価が下がることになります。
借地権割合は例えば広島市では50%の地域が多く、借家権割合は全国一律30%、賃貸割合は満室ならば100%となりますので、仮にその土地の更地評価が1億円だとしますと、貸家建付地の評価は1億円-(1億円×50%×30%×100%)=8,500万円となり、更地より15%程度低い評価となるわけです。
またアパートを建築した場合の建物そのものの評価ですが、一般的に建物の相続税評価額(固定資産税評価額と同額)は建築費用の60%程度になると言われています。さらに貸アパートの評価額は借家権割合と賃貸割合を控除しますので、仮に1億円で貸アパートを建築したとしますと、建物の評価額は1億円×60%=6,000万円 →6,000万円-(6,000万円×30%×100%)=4,200万円となり、現金を1億円もっていた場合と比べて相続税評価額が58%程度減額されます。
またこの評価減は借入をしてアパートを建築する際にも有効で、1億円の借入があると債務として全体の相続税評価額から1億円が控除される一方、建物の評価は4,200万円ですので、やはり全体の相続税税金対象額が5,800万円減少し、同じ節税効果が得られます。
注意点としては、あくまで貸アパートは賃貸「事業」ですので、その経営がうまく行かないようでは本末転倒になってしまいます。立地が命になりますし、信頼できる建築業者を選べるかどうかも重要です。またいくら現金で持っているよりも相続税評価が下がるからとはいえ、手持ち資金をすべて使ってしまうと将来の生活費や相続税納税資金がなくなってしまいます。あくまで一定額は現金を残しておくことが大切です。
賃貸事業はうまくいけば税金対策だけではなく、将来の家賃収益を相続人に残してあげられるという意味合いも出てきます。相続時精算課税制度や法人の設立を使って、早い段階で家賃収益を子や孫に入るようにすることも可能です。事前にしっかりとシミュレーションをした上で、有効だと判断できれば積極的に活用してもいいと思います。