10月から給与計算に影響するあれこれ
2022/10/01 17:29:15 経済一般
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令和4年10月より給与計算に影響する変更・改定が結構あります。まず雇用調整助成金の支給で国庫の蓄えが少なくなってきたのでしょう、雇用保険料率が上がります。今年4月に一旦事業主負担のみが増えましたが、今年10月からは労働者負担の雇用保険料率も1000分の3→1000分の5に増えます(建設業等は1000分の4→1000分の6)。事業主負担も同時に、再度増えます。
社会保険関係では、保険料は変わりませんが、社会保険の対象になる労働者の拡大があります。社会保険に加入する義務のある労働者は原則として週30時間以上働く方でしたが、2016年10月からは従業員501人以上の会社で週20時間以上働く方も対象に加わっていました。これが今年10月からは501人以上→101人以上に改定されます(2024年10月からはさらに「51人以上」に改定予定)。
ただし加入要件は週20時間以上だけではなく、①雇用期間が1年以上見込まれる、②賃金月額が8.8万円以上、③学生でないこと、の全てを満たす場合になります。ここで②に注目していただきたいのですが、月8.8万円×12ヶ月≒年収106万円になります。つまり従業員101人以上の会社でアルバイト・パートしている扶養者がご主人等の社会保険の扶養に入るためには年収を106万円未満に抑えないといけません。130万円の壁が106万円の壁に変わりますので、注意して下さい。
また、10月からは最低賃金の改定もあり、全国平均で時給930円→961円に増額されます。広島県では899円→930円になります。私が四半世紀前の大学生の時はたしか最低賃金が645円で、時給650円でアルバイトしていました。それから比べると最低賃金もかなり上がったような気もしますが、世界ベースで見ると日本は賃金の上昇率が低い(確か先進国の中ではほぼ最下位)です。
ここから話はそれますが、最近では中国に仕事を外注したり中国に工場を造ったりするよりも日本国内で外注や工場建設するほうがコストが抑えられるケースが結構あるらしく、中国の賃金は上がり日本の賃金は上がらないことが続き、とうとう逆転現象が起こるまでになったのです。さらに円安が今後も続くでしょうから、これからは日本国内にどんどん工場を建てて輸出したほうが価格競争力が維持できて、政局不安やテロ・戦争の不安のある国より安全です。日本のGDPも増加し、景気・雇用も良くなります。世界中で半導体工場建設ラッシュになっていますが、実際に日本国内でも半導体工場建設の動きが活発で、半導体受注生産最大手の台湾TSMCが熊本県に新工場を設立するなどのニュースもあります。
半導体を制する国が世界の経済、さらに軍事をも制する時代になりつつありますから、この意味は大きいです(半導体については後日もっと詳しく書かせてもらいます)。ロシアは強かったころのソ連を遠い目で懐かしんで馬鹿げた戦争を続けていますが、中国の台湾侵攻はそんな理由ではなく、台湾の半導体技術を手中に収めてアメリカから世界の覇権を奪う、という極めて現実主義的な理由によって動いている気がしてなりません。
「収入300万円以下は雑所得」の意味するところ
2022/09/01 15:39:56 節税
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国税庁が8/1に出した所得税の通達(法令解釈)の改正案が話題になっています。通達は税法そのものではないですが、「国税当局としてはこう解釈して税法を運用しますよ」という指針になります。そして話題になっている内容は、「収入金額(=年売上高)が300万円以下のものは、原則雑所得」という一文です。
今まで個人で事業・副業をしていて確定申告をする場合、それが「対価を得て継続的に行う事業」の場合は「事業所得」、そこまでではないものは「雑所得」と区分されていました。じゃあ具体的に事業所得と雑所得の境目ってどこよ?と聞かれると、はっきり決められていなかったので、実際のところ本人が「これは事業よ」と言えば事業所得、みたいなわりとアバウトな感じもありました。今回、今さらながらその境目が示された形です。(なお所得税の取り扱いなので、法人には関係ありません。)
では事業所得と雑所得で何が変わるのかという点ですが、両者とも売上から経費を引いた残りが利益で、それに対して累進課税で所得税が課される、という部分は同じです。異なるのは、雑所得の場合①青色申告特別控除(10~65万円)が受けられない、②青色事業専従者給与が支給できない(白色申告の事業専従者控除も取れない)、③損失が出た場合他の所得と損益通算(=相殺)ができない、という点になります。他にも純損失の繰越控除ができない、30万円未満の少額減価償却資産の特例が使えない、などもあります。
①②の意味するところは、事業を行って利益が出た場合、「がっつりやらないと税金計算の時の優遇を受けさせないよ」ということになります。日本政府は副業を推進してるのだからがっつりやりなよ、と言いたいのかもしれませんが、努めている会社が副業禁止でこっそりやっている程度では税金は優遇されない、という不公平感が出る気がしますね。
また③は流行りの「サラリーマン節税」を封じる意味があります。書店でこれ関連の書籍がたくさん並んでいますが、例えば売上を10万円、経費を(入れれるだけ入れ込んで)200万円計上し、赤字の△190万円を給与所得と相殺する申告をして、給与から天引されていた所得税を還付してもらう、みたいなスキームです。ほぼ税金還付を目的にしている事業なんか、事業じゃないだろう!という税務当局の言いたいことはわかりますが、事業の黎明期で本当に赤字がかさんでいる場合も杓子定規に相殺を認めないのか、という問題も出てきます。
なおこの内容は8/31までパブリックコメントを募集しており、その内容によっては原案が修正される可能性があります。また改正が施行された場合、令和4年分以後の所得税について適用されます。つまり令和4年1月以降の事業までさかのぼって影響を受けますので、ご注意ください。
相続税対策を認めなかった衝撃の最高裁判決
2022/08/01 12:38:45 相続対策
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令和4年4月19日、相続税対策に関わる方・業界にとって衝撃の最高裁判決が下されました。法令に沿って適切に相続税申告をしたにも関わらず、その申告を認めず2億4,050万円の相続税の追徴課税を言い渡した事例です。
前提内容をざっと説明しますと、北海道在住の個人には約12億円の預貯金がありました。相続税対策のために東京都杉並区と神奈川県川崎市のタワマン2部屋を、10億円強の銀行借入をして、13億8,700万円で取得しました。
その約3年後に相続が発生しました。この2部屋のタワマンの相続税評価額は、国税庁の「財産評価基本通達」の通りに評価すると約3億3,300万円でした(取得額の約4分の1!)。これに残っていた預貯金を加えても、債務の10億円強を引き算すると基礎控除以下になるということで、相続税を0円と算出しました。
なぜタワマンの評価額がそんなに下がるかと言いますと、建物の相続税評価額は固定資産税評価額と同額となっており、固定資産税評価額は基本的に建物そのものの価値で算出されるため、都内一等地で人気の最上階である等の「販売価格」が高騰する要素に対してはあまり反映されないためです。
この算出方法自体は全くの合法です。にもかかわらず課税当局はこの申告を認めず、最高裁もこれを支持しました。税法には「同族会社の行為計算の否認」という規定があり、「合法であっても結果的に不当に納税額を減少させた場合は、最後にひっくり返しちゃいますよ」というトランプでいうジョーカーのような最終兵器が準備されています。そんなアホな!あんたらのルール通り計算したのに否認されるって、ここは社会主義国家かよ!ってことになります。
否認された理由を見てみましょう。被相続人には不動産購入前には約12億円の預貯金がありました。これが「たった2回の不動産取得をしただけで数億円の相続税が0円になることが、銀行借入をしない・できない納税者との公平さを欠く」ため、「財産評価基本通達」ではなく不動産鑑定評価で再計算しろとのことでした。どう思われますか?私は、節税対策をした人としなかった人との税額が変わるのは当たり前だろう!と思いますが・・。
さらに、不動産を購入した時の被相続人が90歳すぎであり節税以外の目的でこのような高額な不動産を購入した理由が見当たらないこと、相続人が相続後9か月で不動産を売却したこと、さらにはこの不動産購入を提案した三菱UFJ信託銀行への反面調査により「事業経営財務診断」という名前の提案書に「相続税の節税目的」とはっきり書かれていたこと(金融機関は後々のトラブルを避けるために、顧客とのやり取りの内容を稟議書等で残していることが多く、税務署もその稟議書等を抑えようとすることが多い)等が決め手になったようです。
対策としては、節税目的のみでの行為は(特に節税額が高額な場合)このように最終兵器で否認されるリスクがあることから、「節税以外の目的での行為により、結果的に税額は減少したが、あくまで結果論にすぎない」というシナリオを描けるようなスキームにする必要があると思います。
インフレに向かう今後をどう立ち回るべきか
2022/07/01 17:56:49 経済一般
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日本を含め世界中で急激なインフレ(物価上昇)が起こっています。日本でも最近食料品などの値上げが相次いでニュースになっており、将来の生活の不安を感じさせます。
もともとインフレは悪いものではありません。むしろ景気が良くなったことのサインである場合も多く、景気が良くなる→企業の業績が上がる→給与が上がる→購買意欲が上がる→消費が拡大し、需要が増える→モノが不足したり高くても買いたい人が増えるためモノの値段が上がる→企業が設備投資や雇用をして供給を増やす→景気が良くなる、という好循環を繰り返していくのが良いインフレです。日本の高度成長期などは、まさにこの典型です。
ところが今回のインフレは、コロナで経済が停滞する→個人や企業を救済するために政府がお金をどんどん刷る→お金が出回り過ぎてお金の価値が下がる→コロナが落ち着き出したので、購買意欲が戻ってくる→もともとコロナの影響を受けていなくてお金を溜め込んでいた人が高価なモノを買い漁る→一部のモノは高くても売れるので値段が上がる→コロナによるサプライチェーン分断や戦争の影響で在庫不足になっているものもつられて価格が上がる→コロナの影響を受けていた人を中心に購買意欲が下がる、という感じでしょうか。最悪の場合、スタグフレーション(景気が悪くなっていってるのに物価が上がっていく)になることもあり得ます。もちろんインフレが適正なところで落ち着き、景気が良くなっていく可能性もあります。良いインフレと悪いインフレの違いは、賃金が上がるか否かにかかってきます。
さてそんなご時世、私たち事業者がどのように立ち回っていくべきかですが、まずはキャッシュの確保です。コロナ融資等を受けて手元資金はまだ不安がない方も多いと思いますが、利子補給は3年間なので、コロナ初期に受けた融資は来年から実質利払いが始まります。また元本据え置きは1~5年間ですので、据え置き終了後の資金繰りは今から考えておかないといけません。企業にとってキャッシュはドラクエのHPと同じです(わからない方はすみません)。これが0になると、他にいくら設備・人材・販路があっても、決算が黒字でも、ジ・エンドです。キャッシュ・イズ・キングです。こだわりすぎると投資・成長機会を失う場合もあるのですが、まずはこれを第一にしていただきたいです。
あとは皆さん肌で感じられていると思いますが、コロナ以後は需要のあり方が大きく変化しています。それは巣ごもりによる消費の仕方や嗜好の変化だったり、サプライチェーンの分断による供給経路や供給バランスの変化だったりするのですが、需要の変わっていく部分と、変わらない部分の両方を見極めて商品展開などの供給を行っていく必要があると思います。
ちょっと抽象的ですが、変わらない部分とはいつの時代でも求められるもの、例えば人の温もりだったり、社会への貢献だったりします。その部分を忘れて需要の変化だけ追いかけ回しちゃうと、いきなりタピオカ屋を初めて失敗するようなハメになります。
意外ともうすぐ!?インボイス制度
2022/05/31 18:03:04 経理事務
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インボイス制度の概要は令和3年10月1日号(第92号)の事務所通信でお伝えしましたが、法案は平成の時代にすでに成立しており、令和5年10月より施行されます。まだ一年以上先ですが、取引先から登録番号を聞かれるケースが散見されるなど、意外ともうすぐなのです。ちなみに登録番号は法人はT+法人番号と最初から決まっているのですが、(わかっているからと登録申請せずに使用するのは違法です。一応)個人はマイナンバーとは関係ない13桁の番号が割り振りされます。TはたぶんtaxのTなのでしょうね。
もともと毎期消費税の申告納税をしている事業者にとっては、「適格請求書発行事業者の登録申請」をすれば2週間程度で登録通知が来ますので、令和5年10月以降に発行する請求書や領収書にその登録番号を載せれば、あとは事務的に変わることはあまりありません。また申請することによるデメリットも特にありません。弊社では、決算時に合わせて登録申請をさせていただいているケースが多いです(各担当者が随時ご案内いたします)。
問題は免税事業者または年間課税売上高が年度によって1,000万円に届いたり届かなったりするような事業者の場合です。売上先がほぼ100%事業者である場合は基本的には申請したほうがいい(せざるを得ない)のですが、売上先の大半が個人消費者の場合は、個々の状況に応じて判断する必要があります。たとえば飲食店の場合、飲食代を接待費として経費にするつもりのお客様から「登録番号がないのなら消費税分は支払わない」と言われるケースが時々あるでしょうが、一般消費者の方がその点意識する場合は少ないでしょうから、申請をして毎年納税をするほうが損なのでやっぱり申請はやめておこう、という判断になる場合もあります。
またインボイス制度の開始は令和5年10月からですが、令和5年3月31日までに申請しておかないと、原則令和5年10月からではなく翌事業年度からしか登録されませんので、注意が必要です。登録申請に合わせて簡易課税の選択申請をしたほうがいいケースもありますので、これらの点をからめて各担当者から提案がありましたら一緒にご確認をお願いします。
最後に、自社で会計処理をされている経理担当者様へ。令和5年10月以降は全ての領収書請求書に登録番号があるか否かを確認し、消費税コードを変えていかないといけません。インボイス制度開始後6年間は登録番号がない領収書等でも8割または5割のみ仕入税額控除が認められる経過措置があります。これらも全て区分が必要です。はっきり言って、結構面倒になりますよ!涙