優遇されている退職所得の税金
退職所得とは具体的には企業からの退職金、小規模共済の一時金、iDeCoの一時金などがこれにあたりますが、退職所得は給与所得などと比べて大幅に税金が軽減されるように優遇されています。退職所得の計算は、退職所得=(退職金-退職所得控除)×1/2となっており、まず勤務年数や加入年数が20年以下の場合は40万円×勤続年数、20年超の場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年)の金額が退職所得控除として差し引かれます。要は1年ごとに40万円、70万円が追加で非課税になっていきます。その上残った金額が2分の1されますので、残額の半分も非課税になる、ということになります。
さらに退職所得は「分離課税による累進課税」になります。どういうことかと言うと、例えば給与所得等が3,000万円と退職所得が300万円あった場合に、給与所得等は累進課税により40%の所得税が課されますが、退職所得は他の所得金額は無視して300万円に対する累進税率(この場合は10%)の所得税率しかかかりません。このように退職所得には①退職所得控除、②2分の1課税、③分離課税による累進課税という三重の優遇措置があるわけです(一部例外はあり)。
そのため現役世代にとって退職金を準備することは、「将来の備え」と「節税」の両立になります。iDeCoは65歳未満の方は原則誰でも加入できますので、会社の退職金にプラスして加入することで掛金を毎年の所得控除にしつつ、将来安い税額で一時金を受け取ることができます。個人事業主や法人役員ですと小規模共済をつかって退職金準備ができますし、法人役員はさらに自身の退職金原資を生命保険や倒産防止共済をつかって積み立てることで社会保険料の節約にもつながります。
注意点としては退職所得控除には重複期間の調整というものがあり、退職金を受け取った際にその年の4年前までに他の退職金を受け取っていた場合は、前回の勤続期間・加入期間と重複している期間の退職所得控除が原則受けられなくなります。この重複期間の調整は少し複雑なので詳細は割愛しますが、退職金を受け取る際は前回の退職金から5年以上空いているかどうかを意識しておく必要があります。
さらに「老後資金は自分自身でも準備せよ」ということで広がっていったはずのiDeCoにいたっては徐々に改悪が続いており、令和8以降はiDeCo→退職金の順番に受け取る場合は10年以上、退職金→iDeCoの順番に受け取る場合は20年以上空いていないと後で受け取ったほうの退職所得控除が調整されます。10年や20年空けるのは実質ほぼ不可能であり、「iDeCoは広めるが税金の優遇はしません」という日本政府からのメッセージでしょう。
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