国外財産への課税強化の発端となった、「武富士事件」
2016/04/11 11:12:21 相続
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近年、課税当局は国外財産への課税を強化しております。たとえば、平成26年より、5,000万円以上の国外財産を有する方は、毎年「国外財産調書」を税務署に提出する義務が生じましたし、平成27年7月以降、1億円以上の有価証券等を有する方が国外転出する場合は、原則その含み益に対して(売却していなくても!)課税されることとなっております。
このように国外財産に対して監視の目が厳しくなったきっかけは、いわゆる「武富士事件」と呼ばれる、課税当局が平成23年に最高裁で逆転敗訴し、本税1,600億円と還付加算金(税金につく利息のようなもの)400億円を返還した一件が発端になっております。
事件の概要はこうです。父がオランダ法人の株式(この法人が武富士の株式を所有している)を香港に住む長男に贈与しました。非居住者(ざっくりいえば、国外に住む者)が国外財産を贈与によって取得しても、(日本の)贈与税は課税されません。ちなみに、香港には相続税や贈与税そのものがありません。
これに対し、課税当局や東京高裁は、(1)年間日数のうち65.8%は香港に滞在していたが、日本滞在中は出国する前の自宅(部屋は家財道具等がそのまま維持されていた)で生活していたこと、(2)香港での居住はサービスアパートメント(ホテルとアパートの中間的なもの)であった、等の理由により、本当の生活拠点は日本であり、香港への出国は、(税法的には合法ながら、)不当な租税回避目的の行動だとして、(課税当局の最終兵器とも言える、)行為計算の否認の規定適用を行い、また支持しました。つまり、不当な税金逃れのために国外居住したのだから、国外に居住しているという事実はなかったものとみなす!というのです。
しかし、最高裁ではこの主張を退けました。理由としては、「贈与税回避の目的があったとしても、客観的な生活の実態が消滅するものではないから、各滞在日数を調整したことのみをもって、生活の拠点が香港にないとまでは言えない」というものでした。
この事件や、他にも課税当局に不利な判決の出た事件等もあり、課税当局は、これ以上の財産の国外流出と、それに伴う課税逃れを阻止しようと、躍起になっているわけです。税法の改正が「いたちごっこ」である側面が垣間見えますよね。
ちなみに、現在は改正により、非居住者であっても、日本国籍を有する一定のものは国外財産にも課税されることとなっております。
相続税増税の影響はどうか?
2015/10/01 14:11:46 相続
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ご存じのとおり、今年1月に相続税の基礎控除が4割引き下げられました。事実上の相続税「大増税」です。国税庁の「統計年報」によりますと、亡くなられた方のうち相続税が課される割合は、ここ10年ほどは4%程度で推移しています。ただし死亡者数自体が増加傾向にありますので、2012年の課税対象被相続人の数は52,572人と、2006年の45,177人と比較すると明らかに増加しております。
今年の相続税増税で、この課税される割合は6%台にまで増加するだろうと言われております。増加割合は2%程度ですが、人数にすると25,000~30,000人程度は増加するという計算になりますし、もともと課税対象だった方も百万円単位で納付税額が増加することを考えますと、影響は相当大きいとみていいと思います。なんだか消費税の増税と数字上のカラクリが似ている気がします。
税理士として仕事させていただいている私の感覚としましても、ここ9か月で相続に関する仕事は明らかに増えています。相続税の申告もそうですが、税金以外での相続対策の関心も高くなりましたし、必然的に生前対策としての贈与税の申告も増えそうに思います。改めて影響の大きさを肌で感じている今日この頃です。
離婚により財産を分けた場合でも税金がかかる!?
2015/07/31 17:00:01 相続
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厚生労働省が平成27年1月に発表した「人口動態統計の年間推計」によると、夫婦の3組に1組が離婚しているそうです(!)。長年連れ添った夫婦が離婚に至った場合、夫婦共有の財産をどのように分けるか(財産分与といいます)、という問題が出てきます。 預貯金などは半分ずつ分けることができますが、今まで住んでいた持ち家はどうするのか?となるといろいろ問題が出てきそうです。いわゆる分け前をどうするかの問題もありますが、気を付けないと予期せぬ税金が課税されるケースも出てきます。
まず、財産をもらう側(専業主婦の方が、ご主人名義の預貯金をもらう場合など)ですが、慰謝料はもちろんのこと、「協議離婚に伴う財産分与による所得」にも、税金は課されません。持ち家をもらった場合も同様です。まあ、当然かなと思いますが。ただし、もらった財産があまりに過大だったり、偽装離婚だったりすると贈与税が課されます。
財産を渡す方はどうでしょうか?なんで渡す側に税金がかかるんだ?という声が聞こえてきそうですが、実はご主人名義の持ち家を奥様名義に変更した場合に、ご主人に「所得税、住民税」が課されるケースがあります。なぜなら、「離婚に伴う不動産の財産分与は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価(売値)とした不動産の譲渡」とみなされて譲渡所得税等が課されるからです。
「はっ?なんで?」という感じだと思いますが、そのような取扱いになっています。ただ、「譲渡」とみなされるので、不動産の買値が上回っていて利益部分がでなければ税金はかかりません。
そして、買値が下回っているときにも、特例を使うことができます。居住用財産を譲渡した場合には、確定申告をすれば3,000万円までの譲渡所得が非課税になります。ただし、これは親族への譲渡は対象外になるため、「離婚をして他人になった後に名義変更」をしないといけません(婚姻期間20年以上なら、2,000万円の贈与税の配偶者控除の非課税枠を離婚前に使う手もあります)。
いずれにせよ、頭の中の「?」マークが消えないのは、私だけではないと思います・・・。
誰でも設立できる、相続対策にも有利な「一般社団法人」
2014/09/08 13:29:47 相続
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現在、株式会社は資本金1円でも設立できるようになりました。さらに株式会社の半分以下の登記費用で設立できる合同会社、というのもあります。
しかし、まだそこまで知られていませんが、平成20年12月1日より一般社団法人も登記のみで設立できるようになりました。社団法人といえば、かつては公益事業として認可を受けないといけませんでしたので、公的なイメージが強いのですが、今は社団法人を公益法人、非営利型法人、一般社団法人と(税務上)3つに分類しており、そのうち一般社団法人は制約があまりなく、定款を整備して登記すれば、すぐに設立できます。登記費用も株式会社の半額強程度ですし、社員も2人以上(うち理事1人以上)いれば大丈夫です。法人が社員になることもできます。
一般社団法人は、特に事業内容が制限されるわけではありませんので、そういう部分では、株式会社ととくに違いはありません。法人税の課税のされ方も同じです。しかし、株式会社と大きく異なる点があります。それは、「出資金、株式が存在しない(概念がそもそもない)」ということです。法人の意思決定は、社員が各1票をもって行います。
では、なぜ一般社団法人が相続対策に活用できるのか?それは、「株式が存在しない」=「相続対象となるべき株式が存在しない」=「法人の価値が増加しても、相続税の対象にならない」からです。株式会社の場合、法人の純資産額が資本金の10倍になると、株主が保有している株式の評価もたとえば10倍になったりして、その株式を相続する際に多額の相続税が発生することがあります。一般社団法人では、株式がないため相続税には全く影響がありません。社員の地位を引き継いだり、あらかじめ後継者を社員にしておけば税金がかかることなく法人の資産と事業を引き継がせることができます。そして一般社団法人でも、もちろん役員報酬や役員退職金を支給することができます。
もう一つ大きいのは、法人を最終的に解散させる時です。一般社団法人では、解散時に残った財産を特定の社員に分配するという定めを定款に記載することはできません。ですが、実際に解散する時に、社員総会で特定の社員に残った財産を分配することまでは禁止していません。つまり、結局は個人に財産を戻すことが可能なのです。この点は、残った財産は国に帰属させないといけない基金型医療法人(社団)とは異なります。
また、株式会社では解散時に株主に残った財産を分配する際には配当所得として所得税がかかります。一般社団法人の場合も所得税はかかるのですが、配当には該当しないため、税金が有利に計算できる一時所得に該当するものと考えられます。つまり、法人に残った財産の分配も、他の法人形態より有利に行うことができます。これも、相続対策には非常に有効な点です。
相続に関わる者の気持ち
平成27年1月以降の相続について、相続税の基礎控除が4割減額されます。これは要するに、相続税がかからなかったものからも相続税を課し、もともと相続税がかかっていたものにはさらに多くの相続税を課す、という「大増税」です。ケースによっては何百万円も税額が増えるため、「大」をつけても大げさではないでしょう。
また、詳しい説明は避けますが、今は「相続した不動産を売って税金を払う」「不動産そのもので税金を払う(物納といいます)」も難しくなっています。
それもあってか、書店では相続に関する本はとてもたくさんならんでいます。「エンディングノート」だけでも書棚の一列を占めていたり。「エンディングビジネス」という言葉も生まれたりしています。
相続対策の内容も、多岐に及びます。よく勘違いされるのは、相続対策とは相続税を抑えるための手法だと思われていることです。たしかにそれも相続対策の一部ではあるのですが、相続には以下の3つの要素があるのです。
(1)相続財産を把握、確定しておくこと
→どういった財産があるかを明確にておくことや、広義には不動産の境界線などを
明確にしておく、などの行為を含みます
(2)財産をどう分けるかを考えておくこと
→遺言書の作成や遺産分割協議、また納税資金などの換金性のバランスや事業承継との
からみなども考えておく必要があります
(3)相続税をいかに抑えるか
実際の相続においては、上記の(3)を多少犠牲にしても、(2)が優先されることが多いのです。相続人の全員が納得する相続、というのと税金の絶対額が少なくなる、というのはイコールにならないのです。また相続税対策をするにも、子からは親に「相続税の対策をせよ」とは言いにくく、そもそも子は親の財産を把握していないケースが多いのです。親としても、自分の老後資金の不安や、「子どもに早くから財産を与えて甘やかせるのはいかがなものか」という親心から、なかなか生前に積極的な財産分配をするには至らないのです。
ただ、私も平成23年に父親を亡くし、途方にくれている母親の手を引っ張って預金通帳の解約手続きのために銀行廻りした時の何とも言えない気持ちが忘れられません。かけがえのないご家族を失った上に、経験のない相続手続きに奔走しないといけない相続人の方々の負担を少しでも和らげることこそが、税理士の社会的使命なのだと考えています。